担当科目(平成19年度)
1. 東京大学
- 言語情報科学演習 I, II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):音韻論・形態論に関する演習を行い,同時に論文作成の指導を行う。II では1年次の演習を踏まえ,音韻論・形態論に関する個別のテーマを取り上げて演習を行い,同時に修士論文作成の指導を行う。
- 言語情報科学特別演習 I, II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):音韻論・形態論に関する演習を行い,同時に論文作成の指導を行う。II では1年次の演習を踏まえ,音韻論・形態論に関する個別のテーマを取り上げて演習を行い,同時に博士論文作成の指導を行う。
- 言語科学基礎理論演習 I(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):この授業では最適性理論に基づく音韻論・形態論に関する最新論文を、参加者の興味に合わせてハンドアウト形式で発表し合い、互いに議論し合うことで、各自の専門を深めつつ参加者全体の知識を広げることを目標とする。より具体的には、1)検討の価値のある良質な論文を見極める目を養うこと、2)最適性理論のねらいや概要についての基本はもとより、多岐に亘る領域の最新の潮流を理解し、参加者の中で共有すること、3)データや分析法を検討することにより、議論の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及しつつ、健全な批判精神を養うこと、4)発表の仕方や質疑応答を含む議論の仕方の基本を身に付けること、などを目指す。特に発表者は、論文著者の主張や議論を理解した上で、批判に耐えるだけの十分なアカウンタビリティーをもって臨まねばならない。
授業は原則として発表40分、質疑応答40分、連絡事項など予備時間10分の配分で進めることとする。当然ながら、授業の評価は発表や質疑応答の仕方を見ながら、1)〜4)の達成度により決められる。なお、履修希望者の中で、最適性理論に基づく音韻論・形態論について不安がある者には、後期過程授業の「言語解析論氈vを同時受講することを薦めたい。
- 言語解析論 I(教養学部・言語情報科学分科):人間言語の構造や仕組みはランダムに決められているわけではなく,ある種の法則に従っている。それはどの言語の話者であれ当然のように獲得し,それに従って言語を用いているにもかかわらず,自然法則の場合と同様に普段意識されることは全くない。しかし,法則性があるからこそ,母語話者にとってその獲得に大差は見られないのである。ただし,その法則性には全ての言語に共通する部分(普遍性)と,言語ごとに異なる部分(多様性)があり,その異なる部分の決め方が言語の個性を形成している。
この授業では,こうした人間言語において成り立つ法則に基づいてその構造や仕組みを解き明かす文法理論 ----- 最適性理論の世界へと誘い,特に音韻や形態に関わる言語現象を観察しながらその法則性について考察しつつ,人間言語の普遍性や多様性がどのように導かれるかについて講義する。授業の進め方としては,下記テキストを叩き台として,トピックごとに内容確認をしながら批判的検討を加えていく形を採るが,導入や補足やより高度な議論のために,随時ハンドアウトを配付して考察を深めていくつもりである。あらかじめ指定教材を読んできていることを前提に話を進めるので,初回授業時には必ずテキストを用意しておくこと(1‐4章までのコピーでもよい)。なお扱うトピックは,「文法の構成」「言語の類型論」「音節構造」「アクセント」などを中心に,広く深くカバーしたい。
<テキスト>
Kager, Rene(1999)Optimality Theory, Cambridge University Press.
2. 東京言語研究所
- 言語学特殊講義(最適性理論)(理論言語学講座):本講義では,人間言語において共通に成り立つある種の法則に基づいて,個々の言語の構造や仕組みを解き明かす文法理論 --- 最適性理論の世界へと誘う。今回は特に,日本語の文法に焦点を置くこととし,音韻や形態に関わる言語現象を観察しながらその法則について考察しつつ,人間言語の普遍性や多様性がどのように導かれるかについて講義する。
一般に,言語理論の理解のためには,2つの方向性が必要であると思われる。1つは理論的考察であり,理論の目標や方法論を把握した上で,それを改良してゆくための最先端の議論の動向をつかむことである。もう1つは具体分析であり,そのような理論が広範な言語事実に対していかに意義深い説明を提供してくれるかをつかむことである。
講義では,その両輪がバランスよく機能した格好の材料として Ito & Mester (2003) を取り上げ,そこで提案されている日本語の文法構造や基軸となる現象を,上の2つの観点から建設的かつ批判的に検討してゆきたい。その過程で,最適性理論の歴史的な位置付けについて明らかにし,この理論が言語習得・歴史変化・言語起源・言語進化などのテーマにいかなる示唆を与えてくれるのかについて考察したい。また,Smolensky & Legendre (2006), De Lacy (2006), McCarthy (2007) などにて,最適性理論の認知的・哲学的な基盤や最先端の動向についても紹介できればと思っている。
<テキスト・参考文献>
・Ito, Junko & Armin Mester (2003) Japanese Morphophonemics: Markedness and Word Structure (MIT Press).
・de Lacy, Paul (2006) Markedness: Reduction and Preservation in Phonology (Cambridge University Press).
・McCarthy, John (2007) Hidden Generalization: Phonological Opacity in Optimality Theory (Equinox Publishing).
・Smolensky, Paul & Geraldine Legendre (2006) The Harmonic Mind: From Neural Computation to Optimality-Theoretic Approach (MIT Press).
- 最適性理論(春期特別講座):人間が脳内のどのようなプロセスを経て言語を表出しているかに関しては様々なモデルがありますが,最適性理論はそうした問題に対する言語学的アプローチの1つであり,「ことばから見た心の計算理論」とも呼ぶべきものであります。その目標には,当然ながら言語知識の性質やその獲得・運用の仕方についての解明が含まれており,その出現以来から認知科学などとも提携しながら大いなる発展を遂げてきました。
本講義では,最適性理論の目標や方法論はもちろんのこと,言語学的に重要ないくつかのトピックを紐解きながら,この理論が出現した歴史的必然性や言語理論としての意義について考えたいと思います。
扱うトピックは,「類型論と含意的有標性」「言語接触と借入プロセス」「レキシコンの構造とバリエーション」などを予定しています。その3つのトピックはそれぞれ,多数の言語間の問題,2つの言語間の問題,1つの言語内の問題に対応しており,言語の様々なレベルに話が及ぶよう意図したものであります。また,普遍性と多様性という大きなテーマをそれぞれのレベルにおいて内包した問題となっており,互いに有機的に関連したものとなっています。こうしたトピックを通して,それぞれが言語学的にどのような重要性を持っており,最適性理論によってどのように光が当てられるのかを考えていきましょう。
なお,音韻・形態現象から切り込んではいきますが,特に前提知識を問いませんので,関連科目の受講者はもちろん,言語学に興味のある方ならどなたでも歓迎します。
3. 名古屋大学(集中)
- 国内客員研究員(国際開発研究科・国際コミュニケーション講座)(音韻論入門:その基本的な考え方と言語分析への応用):<授業の到達目標及びテーマ>日英語比較音韻論をテーマとする。目標としては,1)英語や日本語を中心とした自然言語の音韻体系・音韻現象を観察しながら,そこに含まれる規則性や法則性を見い出せるようになること,2)見い出した規則性や法則性が,音韻論における理論によってどのように説明されるかについての基本的な知識や考え方を身につけること,3)さらに,英語や日本語のデータを主体的に観察・検討することにより,分析の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及できること,などである。<授業の概要>人間言語で用いられる音の分布や配列は,一見複雑には見えるがランダムになされているわけではなく,ある種の法則に従っている。それは誰しも当然のように受け入れ,それに従って言語を用いているにもかかわらず,自然法則の場合と同様に普段意識されることは全くない。しかし,法則性があるからこそ,母語話者は言語音の分布や配列を難無くこなし,その獲得に大差は見られないのである。本講義ではこうした言語音に成り立つ法則を扱う分野 --- 音韻論の世界へと誘い,英語や日本語などの身近な言語現象を観察しながらいくつかの法則性について考察する。<授業計画>
第1回: 音韻論の目標と方法論,
第2回: 音の特徴と弁別素性,
第3回: セグメンタルレベルの現象(無声化,調音同化,子音変化),
第4回: 動詞の活用とら抜きことば,
第5回:規則の順序付けと音韻体系,
第6回: 連濁の諸条件,
第7回: モーラ・音節の特性と心理的実在性,
第8回: 韻律の類型論とアクセント・音調,
第9回: 日英語の語形成プロセス,
第10回: 規則から制約へ,
第11回: 最適性理論の基本的枠組み,
第12回: 応用:類型論,共時変異,歴史変化,言語獲得
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