担当科目(平成24年度)
1. 東京大学
- 言語情報科学演習 I, II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):音韻論・形態論に関する演習を行い,同時に論文作成の指導を行う。II では1年次の演習を踏まえ,音韻論・形態論に関する個別のテーマを取り上げて演習を行い,同時に修士論文作成の指導を行う。
- 言語情報科学特別演習 I, II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):音韻論・形態論に関する演習を行い,同時に論文作成の指導を行う。II では1年次の演習を踏まえ,音韻論・形態論に関する個別のテーマを取り上げて演習を行い,同時に博士論文作成の指導を行う。
- 言語科学基礎理論演習 V(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻)(講義題目:音韻論演習(中・上級者向け)): この授業は中・上級者向けの音韻論の演習であり,最適性理論に基づく音韻論・形態論に関する最新論文を,参加者の興味に合わせてハンドアウト形式で発表し合い,互いに議論し合うことで,各自の専門を深めつつ参加者全体の知識を広げることを目標とする。
具体的には,1)検討の価値のある良質な論文を見極める目を養うこと,2)最適性理論のねらいや概要についての基本はもとより,多岐に亘る領域の最新の潮流を理解し,参加者の中で共有すること,3)データや分析法を検討することにより,議論の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及しつつ,健全な批判精神を養うこと,4)発表の仕方や質疑応答を含む議論の仕方の基本を身に付けること,などを目指す。特に発表者は,論文著者の主張や議論を理解した上で,批判に耐えるだけの十分なアカウンタビリティーをもって臨まねばならない。
授業は原則として発表40分,質疑応答40分,連絡事項など予備時間10分の配分で進めることとする。当然ながら,授業の評価は発表や質疑応答の仕方を見ながら,1)から4)の達成度により決められる。なお,履修希望者は「言語理論III」や「言語科学基礎論II」を履修済みであるなど,音韻論・形態論についての前提知識をある程度は持つものとする。
評価は,出席や発言など授業への積極性20%,演習(発表)30%,論文50%として総合的に行なう。
- 言語科学基礎論 II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻)(講義題目:音韻論入門):この授業では,人間の発する「音声」の分布や変化の法則を扱う分野(音韻論)の接近法を学ぶことを通して,現代言語学の目標や考え方や方法論などを理解することを主眼とする。題材は日本語や英語に観察される身近な音声現象を扱うが,適宜他言語の現象も紹介するつもりである。
具体的には,1)日本語や英語を中心とした自然言語の音韻体系・音韻現象を観察しながら,そこに含まれる規則性や法則性を見い出せるようになること,2)見い出した規則性や法則性が,音韻論における理論によってどのように説明されるかについての基本的な知識や考え方を身につけること,3)日本語や英語のデータを主体的に観察・検討することにより,分析の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及できること,などを目標とする。
授業の進め方は講義形式を採用し,指定教科書を叩き台としてトピックごとに内容確認をしながら,随時ハンドアウトにより考察を深めていく。あらかじめ教科書を読んできていることを前提に話を進めるので,授業時には必ず指定範囲を読んでおくこと。評価は出席数・授業中の適切な発言・最終日に行う(一夜漬けの効かない)試験によって行うので,それ相当の積極的な姿勢が望まれる。
なお,この授業は4つの言語学入門講義の1つであり,言語学分野で修士論文を書く場合には必修科目(1年次に履修)となっているが,言語学以外を専門とする学生で音韻論の基礎を身につけておきたいという学生の履修も歓迎する。ただし,言語理論 III との重複履修はできないので,内部進学生は注意すること。
教科書:田中伸一 (2009)『日常言語に潜む音法則の世界』開拓社.
- 言語理論 III(教養学部・言語情報科学分科)(講義題目:音韻論入門):この授業では,人間の発する「音声」の分布や変化の法則を扱う分野(音韻論)の接近法を学ぶことを通して,現代言語学の目標や考え方や方法論などを理解することを主眼とする。題材は日本語や英語に観察される身近な音声現象を扱うが,適宜他言語の現象も紹介するつもりである。
具体的には,1)日本語や英語を中心とした自然言語の音韻体系・音韻現象を観察しながら,そこに含まれる規則性や法則性を見い出せるようになること,2)見い出した規則性や法則性が,音韻論における理論によってどのように説明されるかについての基本的な知識や考え方を身につけること,3)日本語や英語のデータを主体的に観察・検討することにより,分析の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及できること,などを目標とする。
授業の進め方は講義形式を採用し,指定教科書を叩き台としてトピックごとに内容確認をしながら,随時ハンドアウトにより考察を深めていく。あらかじめ教科書を読んできていることを前提に話を進めるので,授業時には必ず指定範囲を読んでおくこと。評価は出席数・授業中の適切な発言・最終日に行う(一夜漬けの効かない)試験によって行うので,それ相当の積極的な姿勢が望まれる。
なお,この授業は基本的に修士課程の学生のための入門講義(大学院の言語情報科学専攻の「言語科学基礎論 II」との合併科目)である。学部生の履修希望者は,あらかじめ「言語科学への招待 I, II」「基礎言語科学 I, II」またはそれに相当する入門授業を履修していなければならない。
教科書:田中伸一 (2009)『日常言語に潜む音法則の世界』開拓社.
- 言語情報コミュニケーション演習 II(教養学部・言語情報科学分科)(講義題目:基礎言語科学 I: 音声学・音韻論・形態論):声学・音韻論・形態論を中心に,科学としての言語研究への導入を行う。(統語論・意味論・語用論は冬学期に「基礎言語科学 II」として開講される。)言語分析に必要な道具立ての基礎を学ぶと同時に,具体的な分析例を通して基本的な分析・議論構築の技術を身につける。テーマは以下の通り。
1.導入
2.音声の概要
3.音声の変異・変化
4.音韻構造
5.言語音の心理学:獲得と処理
6.語の概要
7.語構造
8.語の意味
9.語の心理学(1):獲得と喪失
10.語の心理学(2):処理
11.語の変異・変化
12.総括
13.試験
授業の進め方としては,テキストの内容に関する講義と,具体的な言語現象の分析についての演習とをとりまぜて行う。関連論文に関する演習(紹介発表)も含む。テキストは,A. Radford, et al.のLinguistics: An introduction, 2nd ed. (Cambridge University Press).
- 言語生態論(教養学部・言語情報科学分科)(講義題目:言語の進化学:ヒトの生態とことばの起源):池内正幸著『ひとのことばの起源と進化』という本を題材にして,いきものとことば,あるいは生物学と言語学という,一見すると無関係に思える自然と人文の問題が,いかに関連しているかを考える。もっといえば,言語の生物学的基盤や,言語の起源と進化の問題を,学際的な観点から考察することになる。いきものやことばの問題が好きなら楽しい内容になるはずだが,果たして?
本書はこのテーマの入門書であり,とても平明かつ段階的に書かれていて,特に前提知識は必要としない。授業では教員が講義形式で進めつつも,参加者全体と教員で,確認や補足や批判的検討をしつつ,議論を深めてゆく。その過程で,随時,プリントにより補足したり関連論文を読んだりして,考察の話題を拡げてゆきたい。参加者による発表や紹介にもつなげてゆく。
評価は,出席や発言など授業への積極性20%,演習30%,期末試験50%として総合的に行なう。演習とは,授業で行なう発表や紹介を指す。
- 基礎言語科学 I(教養学部・言語情報科学分科)(講義題目:音声学・音韻論・形態論):声学・音韻論・形態論を中心に,科学としての言語研究への導入を行う。(統語論・意味論・語用論は冬学期に「基礎言語科学 II」として開講される。)言語分析に必要な道具立ての基礎を学ぶと同時に,具体的な分析例を通して基本的な分析・議論構築の技術を身につける。テーマは以下の通り。
1.導入
2.音声の概要
3.音声の変異・変化
4.音韻構造
5.言語音の心理学:獲得と処理
6.語の概要
7.語構造
8.語の意味
9.語の心理学(1):獲得と喪失
10.語の心理学(2):処理
11.語の変異・変化
12.総括
13.試験
授業の進め方としては,テキストの内容に関する講義と,具体的な言語現象の分析についての演習とをとりまぜて行う。関連論文に関する演習(紹介発表)も含む。テキストは,A. Radford, et al.のLinguistics: An introduction, 2nd ed. (Cambridge University Press).
2. 東大(本郷)
- 英米文学特殊講義(大学院人文社会系研究科/文学部・英語英米文学研究室):
(講義題目:英語母音の長短交替の問題):80年代は音韻論にとって様々な理論が群雄割拠した時代で,類型的・通言語的なアプローチだけでなく個別言語の文法を深く掘り下げるアプローチにおいても,新しい事実が次々と発掘され,理論の発展を享受した時代であった。特に,1987年はHalle and Vergnaud (1987; An Essay on Stress, MIT Press)が韻律音韻論(Metrical Phonology)の立場から,アクセント類型論の集大成を遂げた年であったとともに,語彙音韻論(Lexical Phonology)も隆盛を極め,英語母音の長短交替の問題が取り沙汰された,いわば「英語母音」の年だった。Spain-Spanish, crime-criminalはなぜ短くなるのか。Canada-Canadian, study-studioはなぜ長くなるのか。
本講義ではこの「英語母音の長短交替の問題」を取り上げ,当時発表された以下の論文1〜4をこの順番で丹念に読んでいく。次いで,約10年の間を置いた5も取り上げ,その後どう改訂されたかを総合的に比較検討する。時間がなければ,1,2,5のみを取り扱う。どれも議論の堅実性とデータ的な面白さを兼ね備え,時代を画してきたような(古くて新しい)良質な論文といえるだろう。
第1週〜第7週
1. Myers, Scott (1987) “Vowel Shortening in English,” Natural Language and Linguistic Theory 5, 485-518.
2. Yip, Moira (1987) “English Vowel Epenthesis,” Natural Language and Linguistic Theory 5, 463-484.
第8週〜第11週
3. Kawagoe, Itsue (1987) “Strict Cyclicity and English Vowel Shortening,” English Linguistics 4, 17-37.
4. Matsumori, Akiko (1987) “Phonology of English Vowel Lengthening,” English Linguistics 4, 1-16.
第12週〜第15週
5. Rubach, Jerzy (1996) “Shortening and Ambisyllabicity in English,” Phonology 13, 197-237.
6. 総合的検討
授業の進め方としては,セクションごとに担当者を決めて口頭発表してもらいつつ,内容確認,補足,批判的検討などを行う。参加者に与えられた責務は,どのアプローチがより優れているか,あるいは自分ならどのようなアプローチを創るか,などの問題を総合的に考察してもらうことである。講義の目標やねらいはそこにこそある。そして,そうした議論をまとめて学期末にレポートを提出してもらう。
なお,「英語母音の長短交替の問題」は,英語の音節構造やアクセントや形態構造を抜きにして語ることはできない。従って,上の考察をうまくまとめるためには,結局のところ,英語音韻論全体を考えることになる。母音の問題は音韻論全体の問題なのだから。
評価は,出席や発言など授業への積極性20%,演習(発表)30%,論文50%として総合的に行なう。
3. 北海道教育大学釧路校(集中)
- 英語学特殊研究3(教育学部):
<授業内容>
この講義では人間の発する「音声」の分布や変化の法則を扱う分野(音韻論)の魅力とおもしろさを,観察と説明の両面から受講者とともに探っていきます。観察とは多様な現象に見られる「不思議さ」との出会いであり,なぜそんなことが起こるのかという知的好奇心をかき立てる醍醐味があります。説明とは多様な現象の背後にある規則性の解明であり,なぜ現象が起こるのかの「不思議さ」を「納得」に変えるという真相解明の醍醐味があります。観察と説明は車の両輪みたいなもので,この2つを兼ね備えてこそ言語研究は魅力とおもしろさで人を引き付け,過去から未来に向けて走り続けることでしょう。
<授業目標>
そこでこの講義では,英語の音韻現象の観察を通して,まずは受講者のみなさんに規則性の「不思議さ」を体験してもらいたいと思います。その一方で,音韻理論による説明がどのように「なぜ」に答えてくれるのかを探り,「不思議さ」を「納得」に変えるプロセスも体験してもらいます。前提知識は問いません。音韻論の世界にどっぷりと浸かって,その魅力とおもしろさを探究していきましょう。
<到達目標>
・様々な英語の「音声」に関わる現象を観察し,「不思議さ」を体験する。
・ 現象の背後にある規則性を発見することで,「納得」を体験する。
・ そうした規則性を体系的に積み上げつつ,英語幼児がそれをどのように習得してゆくのか,日本語とどのように異なるのかなど応用的な側面を考察する。
<授業計画>
たとえば,英語のアクセントを取り上げてみましょう。みなさんも大学入試に備えて,単語1つ1つについてアクセントを暗記したことがあるかもしれません。一筋縄では行かないからこそ,差をつけるにはうってつけです。しかしながら,英語を学ぶ幼児は,他の文法事項と同様に,アクセントで苦労するなどということはありません。初期に少数のデータをインプットさえすれば,あとはどんな単語をいくつ与えられても,規則に基づいて正しいアクセントで発音するようになります。つまり,アクセント規則を憶えるのであって,単語1つ1つのアクセントを憶えるのではないのです。ゆえに,英語アクセントには「規則性」があるのです。そして,規則の集合こそが文法を形成することになります。
こうした現代英語の音韻論(発音に関する文法)を講じるにあたって,本授業では以下の3つの柱を用意しました。
1) 一方的な講義形式ではなく,ヒューリスティック・メソッドで授業を進めて行きます。みなさん自身に「不思議さ」に向き合ってもらい,考えながら現象の「規則性」,すなわち「解決法」を発見してもらいます。
2) 日本人が外国語として英語の発音文法を習得する場合,どのような点に気をつけたら良いのか,英語と日本語の音韻体系の違いはどこにあるのか,などの視点を取り込みます。
3) 英語を母語とする幼児が,実際にどのような習得過程を経て大人の発音文法を獲得するに至るのか,なぜそのような習得過程を経るのか,などの視点を取り込みます。
実際の授業の進め方も,そうした3つの柱に沿って構成したいと思います。
1) 第1日目:英語音韻論の現象1
2) 第2日目:英語音韻論の現象2
3) 第3日目:日英対照音韻論
4) 第4日目:英語音声の習得過程と歴史変化
<成績評価>
授業の評価は,出席や発言頻度など授業への積極性60%,期末試験40%として総合的に行ないます。
<教職チェックリスト>
・ 専門科目の目的・目標・内容を学年進行に伴ってより深く理解する。
・ 専門科目の学習指導に関わる指導方法や評価について,その意義,形態,具体的方法などを理解,習得する。
・ 教師の一方的な指導に偏ることなく,教師と学習者および学習者同士の関係を十分に考慮し,学習者が意欲的に取り組むよう進める。
<テキスト>
指定テキストは用いず,プリントにて講義を進めます。
<参考書>
・ 安井泉(1992)『音声学』(現代の英語学シリーズ2,開拓社).
・ 窪薗晴夫(1998)『音声学・音韻論 』(日英語対照による英語学演習シリーズ1,くろしお出版).
・ 窪薗晴夫(1999)『日本語の音声』(現代言語学入門2,岩波書店)
・ 田中伸一(2005)『アクセントとリズム』(英語学モノグラフシリーズ15,研究社).
・ 川越いつえ(2007)『英語の音声を科学する』(大修館書店).
・ 田中伸一(2009)『日常言語に潜む音法則の世界』(言語文化叢書10,開拓社).
・ 東京大学言語情報科学専攻編(2011)『言語科学の世界へ:ことばの不思議を体験する45題』(11〜13章は田中が執筆,東京大学出版会)
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