担当科目(平成26年度)
1. 東京大学
- 言語情報科学演習 I, II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):音韻論・形態論に関する演習を行い,同時に論文作成の指導を行う。II では1年次の演習を踏まえ,音韻論・形態論に関する個別のテーマを取り上げて演習を行い,同時に修士論文作成の指導を行う。
- 言語情報科学特別演習 I, II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻):音韻論・形態論に関する演習を行い,同時に論文作成の指導を行う。II では1年次の演習を踏まえ,音韻論・形態論に関する個別のテーマを取り上げて演習を行い,同時に博士論文作成の指導を行う。
- 言語科学基礎論 II(大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻)(講義題目:音韻論入門):この授業では,人間の発する「音声」の分布や変化の法則を扱う分野(音韻論)の接近法を学ぶことを通して,現代言語学の目標や考え方や方法論などを理解することを主眼とする。題材は日本語や英語に観察される身近な音声現象を扱うが,適宜他言語の現象も紹介するつもりである。
具体的には,1)日本語や英語を中心とした自然言語の音韻体系・音韻現象を観察しながら,そこに含まれる規則性や法則性を見い出せるようになること,2)見い出した規則性や法則性が,音韻論における理論によってどのように説明されるかについての基本的な知識や考え方を身につけること,3)日本語や英語のデータを主体的に観察・検討することにより,分析の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及できること,などを目標とする。
授業の進め方は講義形式を採用し,指定教科書を叩き台としてトピックごとに内容確認をしながら,随時ハンドアウトにより考察を深めていく。あらかじめ教科書を読んできていることを前提に話を進めるので,授業時には必ず指定範囲を読んでおくこと。評価は出席数・授業中の適切な発言・最終日に行う(一夜漬けの効かない)試験によって行うので,それ相当の積極的な姿勢が望まれる。
なお,この授業は4つの言語学入門講義の1つであり,言語学分野で修士論文を書く場合には必修科目(1年次に履修)となっているが,言語学以外を専門とする学生で音韻論の基礎を身につけておきたいという学生の履修も歓迎する。ただし,言語理論 III との重複履修はできないので,内部進学生は注意すること。
教科書:田中伸一 (2009)『日常言語に潜む音法則の世界』開拓社.
- 言語理論 III(教養学部・学際言語科学コース)(講義題目:音韻論入門):この授業では,人間の発する「音声」の分布や変化の法則を扱う分野(音韻論)の接近法を学ぶことを通して,現代言語学の目標や考え方や方法論などを理解することを主眼とする。題材は日本語や英語に観察される身近な音声現象を扱うが,適宜他言語の現象も紹介するつもりである。
具体的には,1)日本語や英語を中心とした自然言語の音韻体系・音韻現象を観察しながら,そこに含まれる規則性や法則性を見い出せるようになること,2)見い出した規則性や法則性が,音韻論における理論によってどのように説明されるかについての基本的な知識や考え方を身につけること,3)日本語や英語のデータを主体的に観察・検討することにより,分析の問題点や改善法など応用的な諸問題を追及できること,などを目標とする。
授業の進め方は講義形式を採用し,指定教科書を叩き台としてトピックごとに内容確認をしながら,随時ハンドアウトにより考察を深めていく。あらかじめ教科書を読んできていることを前提に話を進めるので,授業時には必ず指定範囲を読んでおくこと。評価は出席数・授業中の適切な発言・最終日に行う(一夜漬けの効かない)試験によって行うので,それ相当の積極的な姿勢が望まれる。
なお,この授業は基本的に修士課程の学生のための入門講義(大学院の言語情報科学専攻の「言語科学基礎論 II」との合併科目)である。学部生の履修希望者は,あらかじめ「言語科学への招待 I, II」「基礎言語科学 I, II」またはそれに相当する入門授業を履修していなければならない。
教科書:田中伸一 (2009)『日常言語に潜む音法則の世界』開拓社.
- 言語と人間I(教養学部・学際言語科学コース)(講義題目:進化言語学:人間言語の起源に迫る):言語学の歴史の中で,「言語の起源と進化」に関する研究が,長い間タブー視または等閑視されてきた事実には,それなりの理由があった。
まずは,仮説の検証や証拠提示ができず,方法論を確立できないために,何でもありの説明が横行してしまうことがある。古生物学のように,化石や地層から年代測定法により出現の時代を特定するということができないのである。また,テーマそれ自体が分野横断的な難解さを持つために,共通言語を持たない研究者同士が手を組んでテーマを煮詰めていけなかったこともある。言語学はいうに及ばず,進化生物学・動物行動学・認知心理学・人類学・遺伝学・神経学などの領域にわたり,いわば進化認知生命科学全体の問題となる。そして何より,現代言語学を牽引してきたN. Chomskyが,このテーマを扱うほど言語学が成熟していないと断言してきたことも,大きな理由であった。
この授業では,そうした背景の中で打ち出されたHauser, Chomsky, and Fitch (2002)を扱う。つまり,あのN. Chomskyが,進化生物学や認知神経科学に詳しいMarc D. HauserとW. Tecumseh Fitchと手を組んで進化言語学の方法論を提案し,このテーマを現代に甦らせた金字塔である。これを皮切りに,S. PinkerとR. Jackendoffとの一連の論争がさらに起爆剤となって,現在までの進化言語学の進展が益々加速したのである。余裕があれば,Pinker and Jackendoff (2005)まで扱いたい。
授業の進め方は,最初のうちは教員が講義形式で進めていくが,慣れて来たところで受講者による演習形式(分担による発表形式)を採用し,セクションごとの流れやポイントを内容紹介してもらいながら,質疑応答する形で進めていく。
評価は,出席や発言など授業への積極性50%,演習(発表)50%として総合的に行なう。
・論争は以下の通りだが,このうち1)を扱うので,各自ダウンロードして入手しておくこと。余裕があれば,2)まで扱いたい。
1) Hauser, Marc D., Noam Chomsky and W. Tecumseh Fitch (2002) “The Language Faculty: What Is It, Who Has It, and How Did It Evolve?,” Science 298, 1569?1579.
2) Pinker, Steven and Ray Jackendoff (2005) “The Faculty of Language: What’s Special about It?,” Cognition 95, 201?236.
3) Fitch, W. Tecumseh, Marc D. Hauser and Noam Chomsky (2005) “The Evolution of the Language Faculty: Clarifications and Implications,” Cognition 97, 179?210.
4) Jackendoff, Ray and Steven Pinker (2005) “The Nature of the Language Faculty and Its Implications for Evolution of Language (Reply to Fitch, Hauser and Chomsky),” Cognition 97, 211?225.
- 日本語学II(教養学部・学際言語科学コース)(講義題目:日本語の音声・音韻):この授業では,現代日本語の音声・音韻に関する受講者の論文紹介を通して,その母音・子音体系,セグメントやプロソディに関わるさまざまな音韻規則はもちろん,歴史変化,バリエーション,生理的・物理的性質,理論分析の仕方,研究動向などの諸相を俯瞰する。テキストは朝倉日本語講座第3巻『音声・音韻』を使用し,日本語の音声・音韻の基本的特徴を理解しつつ,分析のための基本的な考え方や方法論を身につけることを目的とする。
テキストは15章からなり,テキストの最初から順番に,週1回につき1章を受講者が論文紹介することにより,進めていく。受講者はあらかじめハンドアウトを作成し,人数分のコピーを用意しつつ,原則として発表50分,質疑応答30分,予備時間10分の配分で進めることとする。テキストは発表時でも随時参照してよい。ただし,ハンドアウトには具体例をなるべく盛り込み,参照しなくてすむ自己完結したハンドアウト作成を心がけること。
評価は,出席や発言など授業への積極性20%,演習30%,最終課題論文50%として総合的に行なう。
- 英語R(教養学部・教養学科)(講義題目:男女のコミュニケーション学):90年代に一世を風靡したDeborah F. Tannenのベストセラー,You Just Don't Understand!(『ちっともわかってない(の)ね!』)のテキストを聴き,そして読みながら,いま改めて男女のコミュニケーションの実態やあり方を考える。
「人間同士が理解し合うのは根本的に不可能である」という『バカの壁』は確かに存在する。そもそもコミュニケーションは同じ言語を用いることが前提であり,だからこそわれわれは世界の人たちとのコミュニケーションを求めて語学に苦心している。しかしながら,自分の母語ではどうだろうか。用いる言語が同じであっても逆説的に,話しても無駄なタイプに遭遇した経験は誰しもあるだろう。そういうタイプとは距離を置けばいいのだが,もしそれが良好な関係を築かなければならない夫婦,恋人,異性の友人だったりしたら??? 実を言えば,男女で話が通じないのは相手がバカだからではない。そもそも「人間同士が理解し合うのは根本的に不可能」にできているからである。だからこそ通じ合うには,相手を理解し,相手の立場に立ってことばを選ばなければならない。男女の会話は異文化コミュニケーションであるというのが本書の立場であり,そこを出発点にしてこのテーマについて考えてゆく。
授業の構成は以下のとおり。 1)テキストの聴解,クイズ ,2)テキストの読解,解説,ディスカッション, 3)テキストの再聴解,確認クイズ
評価は,出席や発言など授業への積極性20%,クイズ30%,期末試験50%として総合的に行なう。
2. 東大(本郷)
- 英米文学特殊講義(大学院人文社会系研究科/文学部・英語英米文学研究室):
(講義題目:英語のr音の出没をめぐる論争):この授業の目標は,文法理論の1つである最適性理論の考え方を学びつつ,言語学論文における論理的な議論の運び方を吟味することにある。そのテーマとして,現代英語の一部方言に見られるr-loss (He put the tune[r→φ] down)とr-insertion(He put the tuna[φ→r] away)に関わる現象を巡って展開された一連の論争を扱うことにより,現代音韻理論の方法論(主張を裏付けるための論法や議論の仕方)を考察する。
具体的には,McCarthy(1993) の主張と,それに対する Halle and Idsardi(1997) の批判,さらにMcCarthy(1999) の反論と,Orgun(2001) の援護射撃を読み解くことで,テーマそのものの理解はもとより,1)それぞれの主張の論点はどのようなものであるか,2)主張や批判を支持する論拠がどのように妥当なものであるか,3)どちらに軍配が上がるか,などを吟味する。 結果として,いわゆる古典的な派生理論から最適性理論への発展の歴史を辿ることになるだろう。
以下の論文を順次取り上げるので,3以外は図書館やウェブにて入手して授業に臨むこと。
第1週-第4週
1. McCarthy, John J. (1993) “A Case of Surface Constraint Violation,” Canadian Journal of Linguistics 38 (Special Issue on Constraint-Based Theories in Multilinear Phonology), 169-195.
第5週-第8週
2. Halle, Morris, and William Idsardi (1997) r, hypercorrection, and the Elsewhere Condition,” in Iggy Roca (ed.) Derivations and Constraints in Phonology, 331-348. Oxford: Clarendon Press.
第9週-第12週
3. McCarthy, John J. (1999) “Appendix of Review of Iggy Roca (ed.) (1997) Derivations and Constraints in Phonology in Phonology 16(2), 265-271: A Note on Boston r and the Elsewhere Condition,” Ms., University of Massachusetts.
第13週-第15週
4. Orgun, C. Orhan (2001) “English r-Insertion in Optimality Theory,” Natural Language & Linguistic Theory 19, 737?749.
授業の進め方は,最初のうちは教員が講義形式で進めていくが,慣れて来たところで受講者による演習形式(分担による発表形式)を採用し,セクションごとの流れやポイントを口述してもらいながら(またはハンドアウトを作成してそれに基づき内容紹介してもらいながら),質疑応答する形で進めていく。
評価は,出席や発言など授業への積極性50%,演習(発表)50%として総合的に行なう。
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