社会言語学分野 松本和子研究室

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研究プロジェクト

パラオ日本語プロジェクト

PALAUAN JAPANESE PROJECT

旧日本統治領(かつての南洋群島)パラオで話されていた日本語変種の言語学的構造を、方言接触、言語消滅という二つの観点より調査考察している (研究協力者:David Britain)。諸外国におけるディアスポラ言語変種に関する社会言語学的研究(フォークランド英語、カナダの仏語、米国のスペイン語など)は、外地に持ち出された祖国の言語が現地でどのような変容を遂げるかという観点から精力的に進められてきた。本研究プロジェクトは、旧植民地パラオで様々な方言が接触した帰結として形成されたディアスポラ日本語変種の事例を提供するものである。

日本統治時代のパラオは、日本各地から大量の邦人移民が移り住む「移住地」であり、また邦人移民によってもたらされた多様な方言が交差する地であったことから、Trudgill (1986, 2010) や Britain (2002, 2018)、Britain and Trudgill (1999) の提唱する「方言接触モデル」がどの程度パラオ日本語の構造を説明し得るかを検証している。

終戦後、邦人移民は日本へ帰還し、またパラオの高位言語(High language)も日本語から英語へと切り替えられたことから、パラオ人によって習得された第二言語としての日本語変種が、Dorian (1981) などで知られる第一言語の消滅過程と構造面においてどの程度、類似性・相違性があるかを調査分析している。現在、20年後の経年調査(パネル調査・トレンド調査)を行っている。

パラオ英語プロジェクト

PALAUAN ENGLISH PROJECT

現在、パラオで新たに形成しつつある英語変種「パラオ英語」を調査研究している (共同研究者:David Britain)。これまでのポストコロニアル英語変種に関する研究の多くは、旧大英帝国の植民地におけるものであったため、パラオ英語の研究は米国統治領から派生した希少な事例を提供するものである。

ポストコロニアル英語変種の形成に関して Schneider (2007) が提唱する「ダイナミック・モデル」の枠組みを適用し、音韻、形態統語、ディスコース・語用論レベルにおいてパラオ英語がどの段階に達しているかを検証している。土着のパラオ語、移民として存在感を増すフィリピン人の英語、アメリカ帰りのパラオ人がもたらすアメリカ英語などがパラオ英語に与え得る影響を念頭に置きながら、他地域のポストコロニアル英語変種との類似点・相違点も考察している。

現在、国際共同研究として日本学術振興会(KAKEN[1][2][3])とスイス科学財団(SNSF)の支援のもと、ミクロネシアの6つの島(パラオ、キリバス、サイパン、コスラエ、グアム、ナウル)で話し言葉としての英語・書き言葉としての英語を収集し、ミクロネシア英語コーパスを編纂している。それぞれの島は、異なった土着語を持ち、また異なった植民地政策の歴史とそれに伴い異なる植民者の人口推移を経てきたため、そうした個別の影響を考慮しつつ、ミクロネシア地域の英語変種間の比較研究を進めている。

多言語社会パラオプロジェクト

MULTILINGUAL PALAU PROJECT

「多言語社会における言語変化」をテーマに博士論文のプロジェクトとして1997年に開始したものである。これまで社会的ネットワークモデルを用いた言語の維持とシフトに関する研究、社会言語学的ジェンダーパラドックスに関する事例研究、文化的ヘゲモニー言語イデオロギーを用いた考察、接触によってパラオ語へもたらされた借用語に関する研究を行い、その研究成果を随時発表・報告してきたところである。

現在は、以下の二つの観点より20年後の経年調査を進めている。

先行研究の乏しかったパラオの多言語状況を把握するために、1997~1998年にエスノグラフィーと調査票を併用した予備調査を実施し、当時のパラオにおける多言語使用状況とその諸要因を明らかにし、変化の方向性などを示唆してきた。

現在進行中の20年後の経年調査では、当時の「見かけ上の時間」に基づいた変化に関する予測が、今回の「実時間」に基づいた調査でどの程度支持され得るかを検証することで、多言語社会の研究における「見かけ上の時間」モデルの有用性を考察する予定である。

これまでパラオが4つの旧宗主国によって異なる方法で統治されてきたことから、Thomason and Kaufman (1988) の提唱する「contact-induced borrowing scale」の枠組みを適用し、スペイン語、ドイツ語、日本語、英語由来の借用語の取り入れ方が、それぞれどの段階に位置づけられるのかを考察してきた。

現在進行中の調査では、旧宗主国言語のみならず、近年到来した移民言語(タガログ語など)との接触度合いが、近年、どの程度変容したか、そしてその結果として、借用語にどのような変化がみられるかを調査考察している。特に、「食」 に関する借用語に着目している。

多文化日本プロジェクト

多文化日本プロジェクト

移動性が高く、多文化背景を持つ話者の研究を開始したところである (共同研究者:奥村晶子徳増直美フラビア・フェイジョー)。日本と中南米を往来する(日系)ブラジル人やペルー人、帰国児童、インターナショナルスクールに通う児童・生徒などにおける言語接触・方言接触に関わる諸現象を調査考察する予定である。

競争的資金

【研究代表者として遂行した研究助成等】

  • 科学研究費補助金 国際共同研究加速基金 (国際共同研究強化) 2017年~2019年度 (No. 16KK0025) 『ミクロネシア英語の普遍性と個別性―変種間の比較研究と20年後の実時間調査―』 (共同研究者 ベルン大学 David Britain)
  • 科学研究費補助金 基盤研究(B) 2016年~2019年度 (No. 16H03412) 『多言語社会パラオにおける実時間調査―20年後の経年変化―』 (研究協力者 ベルン大学 David Britain)
  • 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究 2013年~2015年度 (No. 25580085) 『接触言語におけるディスコース・語用論的変異と変化―言語の垣根を越えた考察の試み―』 (研究協力者 ベルン大学 David Britain)
  • りそなアジア・オセアニア財団 共同研究 2013年~2015年度 (No. 2418; 2514; 2616) 『太平洋諸国における接触言語の比較研究』 (研究協力者 ベルン大学 David Britain)
  • 科学研究費補助金 若手研究(A) 2010年~2013年度 (No. 22682003) 『旧植民地域における言語盛衰に関する総合的研究―ミクロネシアを事例として―』 (研究協力者 ベルン大学 David Britain)
  • 日本学術振興会 国際学会等派遣事業 2009年 (No. 213028) 『オセアニア地域における消滅の危機に瀕した日本語変種』 (8th International Conference on Oceanic Linguistics, ニュージーランド (オークランド) 開催)
  • 科学研究費補助金 若手研究(B) 2006年~2009年度 (No. 18720100) 『共時的・通時的分析を用いた言語衰退の研究―消滅の危機に瀕した 「パラオ日本語」―』 (研究協力者 エセックス大学 David Britain)
  • 東京財団 大学教員海外派遣プログラム 2006年~2007年 ロンドン大学クイーン・メアリー校言語学部 (受入研究者 Jenny Cheshire)
  • りそなアジア・オセアニア財団 調査研究助成 2005年~2006年度 『ミクロネシアにおける言語消滅の研究―パラオの日本語を中心に―
  • 日本学術振興会 国際学会等派遣事業 2005年 (No. 181069) 『創始者効果と新方言形成―旧植民地の日本語変種の場合―』 (XVI ISA World Congress of Sociology, 南アフリカ共和国 (ダーバン) 開催)
  • 科学研究費補助金 若手研究(B) 2003年~2005年度 (No. 15720097) 『変異理論を用いた方言接触と言語消滅の研究―旧南洋群島パラオ島の日本語―

【共同研究者として遂行した研究助成】

  • スイス科学財団 (SNSF) プロジェクト基金 (Div. I-III) 2015年~2018年 (No. 156849) 『English in paradise?: Emergent varieties in Micronesia』 (研究代表者 ベルン大学 David Britain)
  • 英国 Japan Foundation Endowment Committee (JFEC) 2000年~2001年 (No. 120) 『Palauan Japanese: Language death in the Western Pacific』 (研究代表者 エセックス大学 David Britain)
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